あまくさ乳腺クリニック
所在地:熊本県天草市
用 途:クリニック(乳腺外科)
竣 工:2023年
構 造:木造在来工法2階建て
床面積:243㎡
熊本市の大学病院に勤務されていた女性医師が、故郷天草で地域医療貢献をしたいという想いから、新規開業された天草地域初の乳腺専門クリニック。
敷地は、天草市の市街地を縦断する幹線道路(国道324号)から100m程入った小規模区画開発された場所にあり、周りには遊技場の大型駐車場、個人住宅、低層の事務所や共同住宅、空き地や田畑が残っている場所で、その空き地の一角を区画分筆し建設地とした。 前面道路は、片側に歩道を有した幅員8m道路で、その道路沿いには診療科の違う2件のクリニックが既存で建ち並んでいた。
配置計画は、幹線道路に近い角地側(南西側)に駐車場、施設は敷地奥(北東側)に寄せて配置し、初めて来院する患者へ施設全景が各方位から見えるように視認性を確保した。この配置にはもうひとつ理由があり、北西側50m程の位置に鎌倉時代に創建されたといわれる<本戸馬場八幡宮>の入口の鳥居があり、神道の神の通り道であるこの地の記憶(秋の例大祭神幸行列でも通行する道路)を建築物によって塞がないことを意図した。
要望は、来院する患者がほぼ女性であり、乳腺というデリケ-トな診療科の性格上、室内は明るく開放的ながらもプライバシ-が守られ、外部からは室内にいる人の顔や姿がはっきりと見えない安心感のある施設空間だった。また、外壁の上部に大きなクリニック名サインをできれば設けたくない(美観上からの側面と、患者によっては乳腺科に通院していることを駐車中の車種によって知人に知られたくないという方も少なくない)とのことであった。
ゾーニングは、1階をクリニックスペ-ス、2階はスタッフスペ-スのみとし明確に分けた。また、2階の諸室は全て駐車場側(南側)に寄せ北側を平屋とすることで、北側隣接地への日影の影響が最小限となるようにした。
待合スペースを大きなガラス面にし、クリニックをまちに開くという形は、前述の施主要望から(患者の心理的な面に配慮し)本クリニックの在り方としては適切ではない。また、地盤面から2層分(高さ6~7m程度)のボリュ-ムが直に立ち上がると、道路を通行する人や不安を抱えて来院する患者への心理的圧迫感を与えてしまうことになる。そこで、駐車場側・道路側に沿って本体ボリュ-ムの外側に、高さ4mの外壁を平面L型状に廻し、その間をバッファゾ-ン(緩衝帯)にして樹木を植え、そこに各諸室の窓を設けることで、駐車場や道路から室内にいる患者が外部から直接的に見えないようにした。外部から施設を見た時、外壁~樹木~外壁と見えることでファサ-ドに奥行きをつくり、また、上階がセットバックしていることで圧迫感を緩和した。
外周の壁を完全に閉じてしまうと、まちに対し閉鎖的な表情となり、セキュリティの観点からも仮に不審者が室内に侵入した際、内部の状況が外部から全く伺い知れなくなる。しかし、外部と内部をつながるようにしたい。そこで、道路を通行する車や歩道を歩く人と室内にいる患者との視線が交錯しない位置で、視線の抜けや室内外の雰囲気が双方から感じられるために大きさの違う開口を所々に設けた。 壁の足元も地盤面から浮かすことで壁自体が軽快にし、歩道の花壇の植栽や道路を挟んだ対向敷地に植えてある大きな樹木を室内からの借景として利用することで、自然の風や太陽の移ろい、人や車などのまちの気配が室内から感じられるようにしている。
道路の各方位から見た時、印象が同じとなる壁長30mの白い外壁自体がクリニックのサインとしての役割となり、バッファゾ-ンに植えた木々がその開口(孔)から街に溢れ出て、どこか楽しげでやさしい表情の建築を挿入することで、新しい街並みをつくりだしている。
設計・デザイン・監理:一級建築士事務所AND